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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11642号 判決 1969年8月22日

原告

田口六太郎

被告

東京コカコーラボトリンク株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は原告に対し九〇万五〇〇〇円および右金員に対する昭和四三年一〇月一八日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  (事故の発生)

原告は、次の交通事故によつて傷害を受けた。

(1) 発生時 昭和四二年一〇月一四日午前九時二〇分頃

(2) 発生地 東京都足立区千住三丁目一五番地先路上

(3) 事故車 普通貨物自動庫(品川四リ五二九三号)

運転者 伊藤勝夫

(4) 被害者 原告(歩行中)

(5) 態様 事故車が横断歩行中の原告と接触したものである。

(6) 結果 原告は頭部打撲傷左膝部擦過傷を受け、後遺症として頭痛を残した。

(二)(責任原因)

被告は事故車を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条により本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

(三)(損害)

(1) 休業損害 四〇万五〇〇〇円

原告は本件事故当時、山崎鉄工株式会社に雑役として勤務し、一日一五〇〇円(月額四万五〇〇〇円)の給与を得ていたが、前記傷害により昭和四二年一〇月一四日より昭和四三年一月一三日まで内田病院に入院し、退職後もひきつづき同年七月一五日まで通院加療を余儀なくされ、その間九カ月右収入を得ることができなかつたから、合計四〇万五〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。

(2) 慰藉料 五〇万円

(四)  よつて、原告は、被告に対し九〇万五〇〇〇円および右金員に対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一〇月一八日から支払済みに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告の答弁ならびに抗弁

一 第一項中(一)ないし(五)は認める。(六)は知らない。第二項は認める。第三項は知らない。

原告は、本件事故当時七九才の高令で、事故前から血圧が高かつたもので、原告の治療期間が長びいたのは、高血圧のためである。

(二)(免責)

本件事故は、原告が横断禁止区域を駐車中の車のかげから小走り飛び出す形で横断しようとしたために、事故車と接触したものである。

従つて、伊藤には運転上の過失はなく、事故発生はひとえに原告の過失によるものである。また、被告には運行供用者としての過失はなかつたし、事故車には構造の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告は、自賠法三条但書により免責される。

(三)(過失相殺)

かりに然らずとするも事故発生については原告の過失も寄与しているのであるから、賠償額算定につき、これを斟酌すべきである。

(四)(損害の填補)

被告は本件事故発生後、治療費七五万一二二〇円、看護料一一万四四八〇円、合計八六万五七〇〇円の支払いをしたので、右額を含めて過失相殺されるべきである。

三  抗弁事実に対する原告の答弁

原告が被告主張の金員を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠関係〔略〕

理由

一(事故の発生)

請求の原因第一項(1)ないし(5)の事実(本件事故の発生)は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告は、本件事故により、頭部打撲傷左膝部擦過傷を受けたことが認められる。

二(責任原因)

被告が事故車を所有し、自己のために運行の用に供していたことは、当時者間に争いがないから、被告は、免責の認められない限り、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

被告主張の免責について判断する。〔証拠略〕によれば、本件事故現場は、日光街道方面から北千住駅方面に通ずる道路で、右道路は、幅員一一メートルのコンクリート舗装で、その両側は幅員三、三メートルの歩道があり、平旦で、見とおしは良いが、事故現場附近は歩行者の横断禁止区域になっていること、伊藤勝夫は事故車にコカコーラーの瓶を高く積み上げ、日光街道方面より北千住駅方面に向けて時速約三〇キロメートルで進行し本件事故現場に差しかかつた際、道路左側に駐車していた車のかげから原告が小走りに横断しようとして事故車の道路上に出てきたので、衝突をさけるため急制動をかけたが間に合わず、事故車の左前部に接触し、原告はその場に転倒したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、自動車を運転する者は、たとえ横断禁止区域であつても、車のかげから横断する歩行者が間々あることを考え、絶えず進路前方を注視し、歩行者の発見に逸早く努めまたは徐行するなどして事故の発見を未然に防止すべき注意義務があるというべきである。しかし、伊藤は、これを怠つた過失により本件事故を発生させたものといわざるを得ない。もつとも、原告にも事故現場附近が歩行者横断禁止区域であるにもかかわらず駐車中の車のげから横断しようとした過失があり、右のような原告の過失が本本件事故の一因となつていることは明らかであるが、伊藤に前記過失が認められる以上、その余の免責要件について判断するまでもなく、免責の抗弁は理由がない。

次に、過失相殺については、前記認定のとおり、原告にも過失が認められ、その割合は、原告八、被告二と認めるのを相当とするから、原告の賠償額の算定につきこれを斟酌すべきものということができる。

三(損害)

被告が本件事故後治療費として七五万一二二〇円、看護料として一一万四四八〇円、合計八六万五七〇〇円を支払つたことは、当事者間に争いがなく、しかも、本件事故発生につき、原告に八割の過失の認められることは先に認定したとおりである。そうだとすれば、原告が本件事故により、被告の支払つた治療費、看護料合計八六万五七〇〇円のほか、仮に原告主張のとおり休業損割および慰籍料として合計九〇万五〇〇〇円の損害を受けたとしても、右治療費、看護料を含めて前記割合で過失相殺をするのを相当とするから、被告において、八六万五七〇〇円の支払をしている以上、もはや、原告は被告に対し請求することのできる損害はないものといわざるを得ない。

四(結論)

よつて、原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福永政彦)

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